夏音の風


『倉科さん


初めて見た時からアナタのことが気になっていました。いつも木陰の端で本を読むアナタを目で追うようになりました。もしよかったら僕と付き合ってください。この手紙の返事を聞きたいので、明日、いつものバス停で待ってます。


佐川』



真ん中にしっかりと折り目のつけられている便箋。この手紙の差出人は、黒縁眼鏡をかけた隣のクラスの委員長だ。夏音の通う高校は、こじんまりとした田舎にある。その為、ひとクラス40人編成でABCとランクがつけられた3クラスしかない。夏音はその真ん中のクラス、つまり佐川という男はAクラスの委員長であり、すなわち小規模の高校だと言えど彼は優等生中の優等生なのだ。


その佐川との出会いは通学バスが停まるバス停だった。


田んぼに囲まれた周りには何もない場所にあるバス停には、夏音達の為に学校と保護者達が協力して設置した簡易的なベンチと雨よけにしかならないであろう屋根がある。


数か月前のある雨の日、いつものようにバスを待つ夏音は初めてこの佐川という男と出会った。先に声をかけたのは夏音の方だった。人見知りする性格でクラスの女子とも必要最低限しか話さないというのに、佐川が傘替わりにした鞄から雨水が滴り落ちる様子を見て自ら自分のハンカチを差し出したのだ。











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