夏音の風

「でも、どうして私?」


佐川からの手紙を鞄に戻すと、思わずひとり言を言わざるをえなかった。


夏音は、どうしても理解出来ずにいたのだ。


佐川から貰った手紙には『いつも木陰の端で本を読むアナタを目で追うようになりました』と書かれていた。その言葉がどうしても引っかかってしまう。


ハンカチ渡したのは事実であっても、そのハンカチを返して貰った記憶もなければ、お礼を言われた記憶もない。


顔は普通、成績も普通、部活動をしてるわけでもないし、とりわけ自分でも男ウケがいいとも思えない。


さらには、その地味な性格に拍車をかけるように実家は代々続く神社だ。


「もしかして、祭り絡みとか?」


夏音の父が神主を務める神社では毎年夏に祭典があり、夏音はそこで巫女の格好をしなければならない。また、それに便乗するように近くの河岸では結構大きな花火大会がある。



勿論夏音はその花火大会に行くことは出来ないのだが、周りに何もないに等しいこの田舎町にとって、この花火大会は他の高校生達にとっての大イベントなのだ。
< 4 / 16 >

この作品をシェア

pagetop