*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語








見渡す限り一面、白一色の銀世界だった。








雪深き、白縫山(しらぬいやま)。






一人の年若い青年が、真白の雪の中、黙々と歩いている。






腰のあたりまで埋ずめてしまうほどにうず高く降り積もった柔らかい雪を、両手で掻き分けるようにしながら、沙霧(さぎり)は足を進めた。






雪袴を履いてきたのだが、体温に触れて溶けた雪でじっとりと湿ってしまっていた。




藁を分厚く編んだ蓑(みの)を羽織っていても、冷気は千本もの針となってそれを貫き、肌を突き刺すように感じられる。




菅笠(すげがさ)を被った頭も、寒さにきりきりと締め付けられるようだ。





足元も、藁で何重にも巻かれた膝まである沓(くつ)の上に、さらに革まで巻いているのだが。



うず高く積もった雪の冷たさは、容赦なく沙霧の身体を冷やしていった。







幸い雪は降っていなかったが、吹きつける風は驚くほどに冷たい。




息を吸うと咽喉の奥まで凍りつくようだ。




革手袋の中の指も、革沓の中の足も、もはや痛みさえ感じるほどに冷え切っていた。







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