*華月譚*雪ノ章 若宮と白狐の恋物語
(…………あぁ。


百聞は一見に如かず、とはよく言ったものだ。



雪の山を甘く考えていたな………。



わたしのように都でぬくぬくと育っていた者には、あまりにも凄まじい)







そう考えて、おのずと溜め息が洩れる。



その息は一瞬にして白く凍った。






(念には念を入れろ。


少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。



………などと言うが、本当だな。


やはり、誰か雪道に慣れた者を連れてくるべきだったか………。



急いては事を仕損じる、というやつだな)






こんな奥深い雪山に一人でのこのこやって来てしまったことを、沙霧は心の奥底から後悔してた。





またも冷え冷えとした溜め息を吐き出し、いったん足を止めて空を見上げる。




まだ夕暮れ時ではないはずだが、雪曇りの空は薄暗く、不気味だった。






(………しかし、あいつは本当に、こんな所に住んでいるのか………?)






頭だけはぐるぐると考えを巡らせるが、身体のほうは思うように動かすこともできない。








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