女達の戯言
カウンター席には一人の男が座っていた。歳は30前後と言ったところか。冷たい印象を持つものの、その顔は洗練されており、またバーボンをロックで飲む姿に何とも言えぬ色気が漂っていた。

細いスツールに軽く腰を掛け、長い足をもて余すかのようにゆるりと組み、時折、指でアイスボウルをくゆらせながら、男はじっと空を見つめていた。

店内に微かに流れる古いジャズがその男には似合っていた。男はカウンターに置いていた煙草を手に取り重量感あるライターで火をつけると深く吸い込み、またゆっくりと煙を吐き出した。


そしてーーー


「良いよ。
何かよく分かんねぇけど
あんた、おもしれぇし気に入った。」

男はそこまで言うと残りの言葉は
カウンターの中にいるマスターには
聞こえない声で


ーーーたっぷり抱いてやるよ


と言った。












その言葉を聞き美佐子は心から安堵した。これで前もって練習が心置きなく出来るわと。純太郎の為にもまずはこの目の前の男に散々、抱かれなければと。

そして男は会計を済ませると美佐子の肩を抱き店を後にした。夜の街に二人の男女の影が滲んで消えていった。





【用意周到な女】




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