女達の戯言
「いや、ほんっと
財布の中に小銭増えるのヤなの。
だからさ、良いじゃん。
盲導犬だかなんだかの募金箱に
入れといて。
別にあんたが釣り銭間違えたこと
あたし、怒ってもないし
別に関係ないし……。」


そこまで言うと目の前の彼は


「分かりました。
一円、寄付しておきます。」


何も一円、強調しなくてもさ……。
これで一段落だなと
その場を立ち去ろうとしたら


「あのっ!」


と、目の前のコンビニ店員が
また大きな声を出す。


「なに?」


仕方なく答えると


「ナチュラルな色も……
ーーーー似合うと思います。」


何が言いたいのか全く分からない。


無視して駅の方へと体を向けると


「マニキュア、
さっき買ったマニキュア……赤じゃなくて
ナチュラルカラーの方が似合うかなと……
お客さん、優しい感じの人だから……
パールピンクとか淡い色っつうか
って、何か俺、買ったもの覚えてるって
引きますよね、しかも
マニキュアの色どうこうって……
これじゃ、ストーカーだよ。
あぁ~俺何言ってんだよぉ!」











ああ、そうか
恋とかってこうして突然に
始まるんだっけ?


なんかもう、忘れてた。


全然意識していなかった人から
実はいつも見ていました
みたいな展開になって
で、そっから良い感じになったら
もう誰も止めることは出来なくて……。

















「お客さん、お客さんっ!」


「えっ?」


「はい、これ一円ね。
さっき、お客さん財布に入れるとき
落としていったよ。」


にこやかに穏やかに
微笑みながら言うのは
恐らく、
コンビニのオーナーであろう
中年をかなり過ぎたおじさんだった。







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