ねえ、撫でて


草間さんにもっと近づきたい。誘ってほしい。寄り添いたい。

そう思いながらキッチンで水玉模様のカップに猫舌でも飲めるミルクたっぷりのカフェラテを入れていた。

私も草間さんも猫舌。ホットコーヒーは念入りにフーフーしないと飲めない。

しかもブラックは苦手。

「僕たち、似てるね」

雪が降り、運行見合わせでごった返す駅前。そこで偶然、草間さんと会い、二人でカフェへ。その時、草間さんがそう言って笑った。

草間さんの笑顔はタンポポの花束みたい。綿毛をふーっと飛ばして遊ぶような無邪気だけど複雑な私に幸せをくれる。


今日もいつもみたいに笑ってくれるかな。ちょっと期待しながら、大きめにカットしたチーズケーキとカフェラテをテーブルに置いた。

「どうぞ」

「ありがとう。いただきます」


どうしたんだろう。声のトーンがいつもより低い気がする。

何度も視線を感じて草間さんを見ると、草間さんはそっと目を逸らした。

小春さんはハート柄のブランケットの上で眠ったまま。私と違ってハート柄がよく似合う。

無言でチーズケーキを一口含んだ草間さんは、フォークを置いて小春さんを撫ではじめた。

いつも「おいしい」って微笑んでくれるのに。

きっと口に合わないんだ……。

私にもあんな風に。そう思いながら俯いた時、大きな手のひらが目の前にひろがった。そして、草間さんが私の頭を撫でた。

「髪、綺麗だなと思って。さらさらだし、いい香りがする。僕、香りに敏感なんだ。普段、消毒液の中にいるような生活だから」

私の目から無意識のうちに涙が零れ落ちた。

「ごめん。泣かないで。そうだよね、手術ばかりしてる手で触られたくないよね」

「ううん、違うの」

「えっ……」

「ずっと、こうしてほしかったの」


「じゃあ……、もっと撫でさせて」

私は紫陽花のような蒼い瞳を見つめて、素直にコクンと頷いた。

こうしてほしくてショートボブだった髪を伸ばし、ヘアパフュームをつけるようになった。

その香りと艶が私と草間さんの距離を縮めてくれた。

「ケーキ食べてくれないし、目も合わせてくれないから、嫌われたかと思った」

「ごめんね。なんだか照れちゃって。夏希ちゃんが……綺麗だから」

頬をほんのり赤く染めた草間さんが私の髪を指でクルクルしている。そして、何度も何度もやさしく頭を撫でる。

小春さんはそんな私たちを見て、大きく伸びをした後、再び目を閉じた。これから起こるであろうことを愛らしい耳で察知したかのように。






【ねえ、撫でて*END】




< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:40

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

名探偵の導き

総文字数/2,777

ミステリー・サスペンス5ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
名探偵、赤沼光一 またもや殺人事件を解決へと導く 2017年11月23日*完結* レビュー ありがとうございました 月乃ミラ様 高山様
クリスマスイヴを後輩と

総文字数/4,421

恋愛(オフィスラブ)8ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
後藤未華子×高瀬柊司 後輩である彼を、私は誘えない。 2016年11月22日*完結* OZmall×Berry's Cafe プレミアムホテルSSコンテスト 参加作品 レビュー ありがとうございました 高山様 月乃ミラ様
重なり合う、ふたつの傷

総文字数/89,302

恋愛(純愛)209ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
『重なり合う、ふたつの傷』 子供の頃は泣けなかった でも今は泣ける あなたと出逢ったから その涙は希望の涙か それとも別れの涙か 今を生きている あなたへ贈ります 玉置梨織(たまきりお)15歳 天野蒼太(あまのそうた)15歳 神田ルミ(かんだるみ)15歳 桜井零士(さくらいれいじ)19歳 「オレ、好きだな、君の声。鼻にかかったじゃれた声」 コンプレックスだった自分の声を好きになった瞬間。 *2014年9月9日完結* どうぞよろしくお願いします レビュー ありがとうございました mira!様 高山様 さいマサ様 小田真紗美様 シュレディンガーの猫様 こみあな様

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop