子猫に花束を


*


「ハイ、必ず連れていきますので」


トントン拍子に進む縁談。成人式以来袖を通したことすらない振袖は、当然着慣れない。グルグル巻きにされた髪の毛だけはなんだか気に入ってるけど。


「行くぞ、星羅」


木造一軒家の家の前に黒塗りの高級車が停まる。


「ちょっと待ってよ!ホテルに着く前に、確認しておきたいことがあるの」


「ホテル?誰がそんなとこに行くって言った?」


「えっ?普通お見合いって言ったら……」


高級ホテルで会食しながらとかじゃないの?


「いいから、早く乗れ。彼方(あちら)さんをお待たせしたら悪いだろ」


「えー、でもっ」


「星羅、いい加減覚悟を決めや」


「……その話し方、やめてって言ったでしょ」


興奮すると、すぐ関西弁になるんだから。


私と父を乗せた車は、大きな川にかかる橋を越えるとと高級住宅が立ち並ぶ住宅地に入る。


「このへんって、ホントいい家ばっかり並んでるのね」


ふと隣に座る父に話をふると


「……は、話しかけんと。こころ、こころ……」


昭和の漫画のように、手のひらに『心』という漢字を何度も繰り返し書いては飲み込んでいた。
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