子猫に花束を

*


「わぁー、洋風のシャンデリア」


広い玄関に高そうな猫の置物。相手方の吹き抜けがある大きなお屋敷のような家だった。


「まあ! 越智(おち)さん、よくいらっしゃいました」


越智とは私達のことだけど、この上品なダイヤのネックレスを首にあしらえたご婦人はどう見ても家政婦なんかじゃないわよね?


「奥さん、この度は本当にありがとうございます。ホラ、星羅、突っ立ってないで挨拶しなさい」


……奥さん? ということは、この人が相手の母親ってこと?


「えっと、初めまして。星羅と申します」


ここはお父さんの印象を悪くしない為にも、どうにかお嬢様を演じないと。


私――越智星羅(おちせいら)は、小さな印紙会社の社長兼工場長を兼ねる父、信宏(のぶひろ)の一人娘で、将来は父の工場を切り盛りできる相手を婿入りさせろと周りから何度も言われてきた。


それなのに、突然その工場は畳むことになったとか。父の再就職先の相手とお見合いしろだとか、そういう自分に重要なことはもっと早く言って欲しい。


ちょっと前までなら、誰が婿なんて取るか! ってよくお父さんと喧嘩してたけど、今の状況を考えるとそんな軽々しく『この縁談は断ります』なんて言える立場じゃなくなっている。


「そんなかしこまれらなくて大丈夫よ、星羅ちゃん」


フフッと笑った奥様の笑顔は……眩しいくらい美しかった。


このくらいの立派なお屋敷に住む人はこのくらいキレイじゃないとダメなんだ。


そんなことを呑気に考えていると、私はその奥様に奥の客間へと案内された。
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