私は男を見る目がないらしい。
 

「……三浦さん、敬語……」

「……あぁっ。いやいや。失敬」

「……」


三浦さんはコホンと咳払いをして取り繕うけど、もう遅い。

バレバレですから。

普段は普通に敬語なんて使わずに話す三浦さんが敬語を連発する時は、妙にウキウキしている時だ。

不思議に思ってその理由を以前聞いたことがあるんだけど、ただニマニマとするだけで答えが返ってこなかったから、聞くのを諦めた。

私の予想では、奥さん絡みなんだろうと思ってる。

以前、三浦さんと奥さんを見かけた時に会話が聞こえてきたことがあったんだけど、その時お互いに敬語で話していて、何で敬語なんだろうと不思議に思ってたんだ。

でもきっとそれが二人の間では普通のことで。

三浦さんの頭の中を奥さんが占めているときは、無意識に敬語が出てきてしまうのだろう。

今日はまさに、奥さん絡みで起こっているのであろうその“ビョーキ”を発症しているようだ。

休みの間に嬉しいことでもあって、それを今も引きずっているんだろうな……。

私ははぁとため息をついて、三浦さんに食いつくのをやめた。

これ以上食いついてもきっと三浦さんのほわほわオーラに負けるだけだし、それにこうして仕事として来てしまったものはやるしかない。

私たちは目を合わせてハァとため息を一斉について、白衣をばさりと羽織った。

……ただ一人、三浦さんだけは申し訳なさそうな顔をして、おろおろとしていたけど。

 
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