恋物語。
―夜。
私はキッチンで、ご飯を食べたあとの片付けをしていた。
「あの二人ってさー、」
「え…?あの二人…?」
目の前のダイニングテーブルに座る聡さんが話しかけてくる。
それに一旦、動かしていた手を止めて彼の方を向いた。
「純也と沢松さん。」
「あぁ…あの二人…はい。」
それが分かった私は視線を戻し再び手を動かし出す。
「なんだかんだ言って、いい夫婦だよね。」
「うん…そうですね。」
朱里は“好きって言ってくれない”とか言っていたけど…
でも二人は本当にお似合いだし…ほんとに仲も良い。
それに“好きって言われたい”っていうのも彼女の本音だとは思うけど…
言葉にしなくても純也くんはちゃんと、朱里を好きだと思うんだー。
「ねぇ、知沙。もう終わる?」
「え?あ…はい。もうちょっと…」
聡さんに声をかけられ残りの片付けを終わらす。
そして…彼と向かい合う椅子に腰を下ろした。
「何ですか?聡さん」
「23日さ…午前半休、取ってくれる?」
「え…?何か用事でもあるの?」
突然そう言う聡さんに少し驚いた。
「用事っていうか…すごく大事なこと。」
「…??」
“大事なこと…?”
それを何か聞こうとした時だった。
「っ…!?」
「これ…出しに行こう。」
彼が……一枚の紙を差し出した。
「婚姻…届…」
ほとんどの項目が記入済のその紙切れ。
書かれていないのは…私が書く所…。
「え、でも…何で23日…?」
4月23日なんて…特に二人の記念日でもない日。
なのに聡さんは…何でこの日を選んだの…?
「だって覚えやすくない?聡の4(し)に…23(ちさ)だよ?」
「っ…!」
それは彼の優しさだと分かった。
日付を覚えるのが苦手な私への“気遣い”
「はいっ…一生、忘れないです…」
それは…
何でもなかった日を…“大切な記念日”に変える魔法のようだった―。
【END】