恋物語。
「はい……もしもし。」
『あ、知沙ちゃん?今って大丈夫?』
「あ……はい…」
朱里の顔色を伺いながら答える。
『そう、ならよかった。てか知沙ってさー…、』
ドキ…ッ!!
突然の“呼び捨て”に心臓が飛び出そうなほど驚く。
『…水曜日って仕事だよね?』
「す、水曜日ですか…?そうですけど…」
何なんだろう…?一体…。
『だよね?実は俺さ…その日の午前中、知沙の会社の近くまで行く用があって…』
え…?そうなんだ…?
『だからお昼、一緒にどうかな~って思って』
「へっ…!?」
まさかの“お誘い”に素っ頓狂な声をあげる。
『あ…もう誰かと約束してたかな?』
「え!?いやっ……大丈夫、です…」
『ほんとに?』
「……はい。」
『よかったー…安心した。』
そう言う井上さんの声は…心の底から安心したような声だった。
『じゃあ水曜日、会社まで迎えに行くよ。』
「え…!?」
『俺、車移動だからさ』
「あ…そうなんですね。…分かりました」
『じゃあよろしく。そういや知沙…今日は何してたの?』
「え…!?今日、ですか…?今日はー…」
いきなり今日のことを聞かれて本当のことを言うべきか悩む。けれど…
『何?まさか…俺の知らない男といるとか?』
「っ!!…ち、違います…っ!!朱里…ですよ…」
勘の鋭い井上さんには黙っていられないと思い朱里の存在を明かした。
『沢松(さわまつ)さん…?』
「井上さーん!知沙のこと、お願いしまーーす!!」
井上さんが喋ったのと同じぐらいのタイミングで朱里が電話口に聞こえるよう大きな声でそう言う。
「ちょっと朱里…っっ」
『あ、ほんとだ。沢松さんの声。』
朱里に注意しようとした時、井上さんの声が聞こえた。