恋物語。




「あ。話戻すけどさー…朝の知沙、ほんとに驚いてたよね?」



「当たり前じゃないですかっ!!まさか、うちに来るなんて思ってなかったですもん…っ」


運転する彼の横顔にそう言う。




ほんとにそう。


だってあの時の井上さん…“うちの会社の近くまで来る”ってだけ言ってたんだもん…。
それがまさか…私の所だなんて…こんなの誰だって予想しないよ…っっ




「あははは…ごめん、ごめん。プロジェクトに関わらない人間には多言無用だったからね」



「でもその話って…いつからあったんですか?」



「え?んー…先月の頭ぐらい、かな。」



「え…?」




じゃあ…私が井上さんと知り合う前には…もう決まっていたんだ、このプロジェクト…。




「だからさー…初めて知沙に会って、知沙がax famの社員だって知って…めちゃめちゃ驚いたんだからね?」



「え…!?そうなん、ですか…?」




私には全然…そうは見えなかったんだけど…。




「そうだよ。ちなみにこれ…純也もメンバーだから。」



「あ…そうなんですね。」




だから朱里…純也くんからちょっと聞いていたんだ。




「うん。だから純也も見に来るかな?撮影。」



「えぇ…っ!?」




そ、そっか…そういうことか…っっ




「何?今更、断るとか無理だからね?」


横顔でも分かる、彼の意地悪な言葉。



「わっ…分かってますよ…っ」




分かってるよ、そんなこと…。


っていうか…断ることなんて出来るわけないじゃん…っ
うちの社だって、かなり力を入れてるプロジェクトみたいだし…。




「あ……ここかな?」


そんな呟きが聞こえたあと車はカーブし駐車場へと入っていく。



「ん…?何屋さん…?」


外観だけでは…何屋さんなのか想像できない造りのお店。



「それは行ってからのお楽しみ。っと…」



「っっ…」


最後、呟くように行った井上さんは助手席の背もたれに腕を回し運転席の窓を開け顔を出し車をバックし始めた。




わ…何これ…。


よくテレビとかで“車をバックさせる姿にキュンとする”って言っていたけれど…今ならそれが少し…分かるかもしれない…。




「…よし。さぁ行くよ?」



「はい…」


車を止めた井上さんにそう返事をして車から降りた――。





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