恋物語。
「ぁ…」
うちの(ブランド)特集してる…。そっかそっか、そういえばPOP届いてたよね。
そうだ。それ見た時も思ったけど…琴葉ちゃんが着てくれてるんだよね、今月って。
琴葉(ことは)ちゃんというのは…このファッション誌の専属モデル。この雑誌では私が一番好きなモデルさんだったりする。
そだそだ。この服、入って来てたなぁ…また売り上げ、上がるかな。
そう思いながら、ふと右目を人差し指でこすった。
「知沙さーん」
「え、はい…」
急にカメラマンの彼に呼ばれたので顔を彼に向けた。
「眼鏡…取ってみます?」
「へ…っ!?」
彼の発言にものすごく驚く。
だって…だってだって…っ
聡さんが前に…“俺以外には見せないでね?”って念を押すように言ってたんだもん…っ
今…その聡さんがいる前でそんなことをしたら…あとで、なんて言われることか…っっ
「んん~…ダメですか?全体も撮りたいからソファかベッドに寝てもらいたかったんですけど…」
「っ…」
そう言われちゃうと私は何も言えない。だから…スタジオ内にいる彼の姿を探した。
するとすぐに目は合って…彼は軽く頷いた。多分それは…OKサインなのだと思う。
「わ…分かりました…」
カメラマンの彼にそう言って私はゆっくりと眼鏡をはずし…それをテーブルの上に置く。
そのまま前を見てみると…全然輪郭のはっきりしない世界が広がる。目の前にはカメラを構えている人。
その奥には…数多くの人たち。もう…彼がどこにいるのかなんて…さっぱり分からない世界となる。
とりあえず、カメラマンの指示に従おうと私は立ち上がって、ベッドにうつぶせで横たわる。
このベッドはフカフカで…本当に眠ってしまいそう。そんな私が分かってしまったのか…
「ほんとに寝てもらっても構いませんよー?」
なーんてことをカメラマンの彼は言い放った。
「っ…!!!そ、それは止めておきます…っっ」
彼のその言葉に慌てて起き上がった私は、そのままベッドに座った。
もしそんな寝顔なんかがカタログに使われてしまったら…って考えただけでも恐ろしいんですけど…っっ