恋物語。
―それから約1時間後。
「…以上で撮影終了となりまーす!皆さん、お疲れ様でしたー!」
「「お疲れ様でーす!」」
撮影に携わっていた人の声で終了の合図が告げられる。
あ…これで終わりなんだ…よかったー…。
無事にこの大役を務められて私は心の中で安堵した。
「坂井さん、お疲れさま。」
「あ…お疲れ様です」
仕事モードの井上さんに話しかけられてそう答える。
「もう…部屋戻るよね?」
「あ……はい」
少し考えて返事をした。
ここにいたって何もすることないもんね…?なら今日はもう家に帰ろう。
こんなとこにいるけど…今日は一応、有給を貰っているんだし。
「分かった。じゃあ行こうか。」
「…はい。」
そう答えたら歩き出す井上さんの背中について行った。
「今日…どうだった?」
「え?あぁー…めちゃめちゃ緊張しました…こんな経験、ほんとなかったので」
「そっか。でも…かなり様になってたと思うよ?」
「えぇ…!?そうですかっ!?」
井上さんのその言葉に驚く。
「そうだよ。まぁさすがに最初は固い感じが見られたけど…でも…眼鏡を取ったあとかな?何か吹っ切れたみたいだった。」
「っ…//」
何だか恥ずかしくなって俯いた。
私…そんな感じだったの…?自分では全く分からなかったけど…。
でも少なくとも…井上さんには、そう見えてたってことだよね…??
そう思った時、井上さんが立ち止まったようなので私も立ち止まる。
どうやら部屋(楽屋?)に着いたらしい。
「…どうぞ?」
「あ…ありがとう…ございます…」
鍵を開けてくれた彼に俯いたままお礼を言って中へと入った。
ガチャ…ッ
「ぇ…」
ドアが閉まる音が聞こえたと同時、腕を引っ張られて…彼の胸の中に収まった。
「やっぱり無理だった…何度連れ去りたいと思ったことか…」
「……。」
弱々しく聞こえる彼の声に何を言ったらいいのか分からない。
「だから今から…」
「っ…」
そう言うと彼は私を離した。彼と視線が絡む。
「俺が知沙を…独占してもいい…?」
「……はい…」
真剣な眼差しで私を見つめ続ける視線に…口が勝手にそう動いていた――。