恋物語。
「知沙ちゃん、今日誕生日って聞いたから。俺からのサプライズ」
そう言う井上さんは…今日見た中で一番、柔らかな表情をしていた。
ドキ…ッ
「あ、えとっ…ありがとう、ございます…っ」
混乱する頭の中、とりあえずお礼だけは言うことができた。
綺麗なピンク色をした、そのカクテル。グラスの縁には、さくらんぼまでもが付いている。
「あのっ…特製ってどういう…」
「そこは秘密。普段あまり飲まないっていう知沙ちゃんのために飲みやすい物にしてもらったから…ちょっと飲んでみて?」
事の真相を聞こうとしたけど答えてはくれず、柔らかな表情のままそう勧められた。
「ぁ、はい…じゃあ…いただきます…」
せっかく用意してくれた物をそのままにしておく訳にはいかないので試しにそれを口に運んでみる。
ぁ…
「…美味しい」
その味は甘くて、とても飲みやすく感じた。
「よかった。」
「てか先輩、粋なことしますね~!!」
「そうかな?俺がやりたくて、やっただけなんだけど」
純也くんはニヤニヤとした顔で井上さんの腕を肘でつつく。
「またまた~!マジでカッコイイっすね!憧れます」
「じゃあ純也もやればいいじゃん」
「無理っすよ、恥ずかしいじゃないですか」
「けどさー、女の子は喜ぶんじゃないの?ね、知沙ちゃん」
「え…!?あ、はい…」
井上さんと純也くんで会話が繰り広げられている中、その矛先が急に私に向いて驚きながらもそう答えた。
「ほら、親友の知沙ちゃんがそう言ってんだからさ。」
「知沙ちゃん…ほんとにいいと思う?」
少し不安そうな顔に見える純也くんが私にそう聞いてくる。
「あ、うん…私もこれ、嬉しかったから…朱里もきっと喜ぶと思います…」
これは本音。目の前に置かれた時は本当にビックリしたけど…でも嬉しいって気持ちの方がずっと勝っている。
「んー……じゃあ考えてみます。でもこのことは…朱里には内緒で。」