恋物語。
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「…じゃあ井上さん。知沙のこと、よろしくお願いしますね?」
すっかり酔いの覚めたらしい朱里はしっかりとそう言う。
この食事会はお開きとなり、みんなでお店の外へと出た。
「了解。」
「じゃあ知沙、またね~」
「うん、バイバイっ」
私がそう言うと朱里と純也くんは歩き出した。
「…さて。俺たちも帰りますか」
「はい…」
そう言って二人とは逆方向の駅へと向かい始めた。
ドキドキドキドキ…
男の人と二人で帰るのなんて初めてだから…変に緊張してしまう。
「知沙ちゃんさ…」
「はい?」
「ほんとにいないの?好きな人」
井上さんは私に振り返る。
「あ、はい…全然…それが何か?」
さっきもそのこと言ったはずなのに…どうして…?
「いや…俺にはいるんだけどなー…って思って」
「え…」
やっぱりそうなんだ…。てかこんなかっこいい人に彼女がいないなんて…あり得ないよね…??
井上さんの発言に驚きはしたけれど…心のどこかでは納得している自分がいた。
「あ、そうなんですね…やっぱり可愛いんですか?その彼女」
「うん。めちゃめちゃ可愛い」
「へぇ~…」
この井上さんがそう言っちゃうんだから…相当可愛い子なんだろうなぁ…。
「それって…会社の子なんですか?」
「ううん。……ここにいる」
「へ…っ!?」
井上さんが突然立ち止まるので私も立ち止まった。
てか今…“ここにいる”って…それって…まさかもしかして…っ!!
「え、あのっ…えと…っ」
もう驚きすぎて、それ以上の言葉が出てこない。だって“ここにいる”のは…
「…知沙ちゃん。俺…一目惚れしたみたい」
“私”しかいないのだから―…。