きみの、手



そしてやってきた屋上で、いつものようにベンチに座る彼に私はお弁当を広げた。



「あの、先輩?」

「何だよ」

「さっきのあの人…元彼女さんには、触れたんですか?」

「……」



その欲求のまま、ストレートに聞く私に彼はいつものようにお弁当を少し眺めてからお箸で一口食べる。



「…触れなかった」

「え?」

「好きだったし、向こうもある程度理解してた。けど…やっぱり触れなかった」

「……」



穏やかな青空の下、ぽつりと呟かれた言葉。



「手を握ることもキスも出来なかった。一度、酒の勢いがあれば出来るかもしれないと思ったけど、ベッドの上に押し倒した所でやっぱり無理だった」

「…そう、だったんですか…」

「それで結局、向こうが泣いて『別れる』とさ」



お箸を持つ、その色の白い指先。それは他の人と大差ないものなのに。

好きなのに、触れることが出来ないのはどんな気持ちだろう。触りたいのに、手をつなぎたいのに、意思とは反対に拒む指先。

それはどんなに苦しくて、悲しくて、どんな気持ちでさっき彼は彼女を見つめていたんだろう。



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