きみの、手
「お前は、怖くないのか?」
「え?」
「…気持ちを伝えること」
「……」
怖くない?
ううん、そんなわけない
「怖いですよ、もちろん」
拒まれるかもしれない。終わってしまうかもしれない。抱く気持ちを伝えるのは、怖い。
「でもそれ以上に、後悔はしたくないです」
だけど、伝えられずに泣く方が嫌。
伝えて、その心に少しでも自分の存在が残ってくれたらそれでいい。それだけで価値がある。
「……」
いつの間にか食べ終え、空になったお弁当箱。それを受け取りしまう私に、彼は何かを考えるように黙り込む。
少し猫背になりがちなその背中を、バシッと右手で力強く叩いた。
「いっ…何するんだよ」
「今私に触れられて、不愉快でしたか?」
「え?」
「さっき私に触れて、気持ち悪かったですか?」
「……」
いや、と小さく振る首に、笑みがこぼれた。
「じゃあ大丈夫ですよ。先輩は、あの人にも触れます。私が触れるくらいですもん、大丈夫」
布越しでも、頭ひとつでも、それまで一切触ることを許さなかったあなたが拒まないでいてくれた。
そのことだけで、嬉しいから
「だから、怖がってばかりじゃダメです」
私はそれだけ言うと、軽くなったお弁当箱を手に立ち上がり屋上を後にした。