STORMILY
その瞬間、今まで私の心を必死に防御してくれていた、最後の砦がガラガラと崩れて落ちて行くのが分かった。


その音が大きすぎて、もう、私のお母さんではなくなった女が、目の前で何か喚いていたけれど、まったく聞き取る事ができなかった。


でも、この女との意思の疎通を図らなくてはならない義理は、私にはもうない。


すっと視線を逸らし、踵を返すと、私はそのまま玄関へと歩を進めた。


「ちょっと、逃げるつもり!?」


一瞬だけ、何か聞こえたような気がしたけれど、すぐに空耳だろうと判断し、ドアを抜けて外に出ると、私は確固たる信念を持って歩き出す。


脳裏に真っ先に思い浮かんだ、ある場所へと向かって。


あそこが一番相応しい。


私が唯一、心休まる空間。


特にここ1ヶ月間は、まるで夢のように、穏やかで幸せな時間を過ごした場所。


あそこ以外に考えられない。


この目に最後に、焼き付けるべき光景は。


それくらいは自由に選ばせて欲しい。


何一つ得られた物はなく、あまりにも孤独だった私の人生に、終止符を打つ場所くらいは。


心の中で強く深く、そう願いながら。


私はただひたすら、前へ前へと足を動かし、目的地に向かって歩き続けた。
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