STORMILY
「ま、細かい事は良いや。会えて良かったよ。庄井、今ケータイ持ってる?」


スーツの内ポケットに手を突っ込みつつ、先生は足早にこちらに近付いて来た。


「これからはあんまり会えなくなるからさ、今のうちに番号交換を…」
「こ、来ないで下さい!」


私は急いで手すりの支柱を固定しているブロックを足がかりにして、胸の高さほどのそれによじ登り、ほとんど落下するようにして向こう側に降り立った。


手すりから、30センチほどの段差がついている屋上の縁までは約1メートル。


そこに立つと、一気に地面との距離が身近になった。


手すり越しに見るのとそうでないのとでは、雲泥の差がある。


高所恐怖症ではなかった筈なのに、一瞬めまいを覚え、私はその場にペタン、と座り込んでしまった。


同時に足がガクガクと小刻みに震え出し、これではすぐには立ち上がれそうにない。


「……バカな真似はやめろ」


先ほどの制止は完全に無視されていたようで、先生は私が手すりを乗り越えた地点まで接近していた。


それまでとは打って変わって、いつになく、厳しい表情と声だった。
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