STORMILY
「時間を戻せるんですか?母親が、言ってはいけない決定的な一言を発するその前に」


表情に変化が現れないという事は、先生はおそらく、私が抱えている問題に以前から薄々気が付いていたのだろう。


「そんなの無理に決まってますよね?だからこうする以外に、方法はないんです。たくさんあるうちの一つがダメになったんじゃない。一番守りたかったものがダメになっちゃったんです。無惨に打ち砕かれたんです」


一瞬、雨が降って来たのかと思った。


「私、今まで無い物ねだりなんかした事なかった。父親なんて別に居なくても良い。親友なんてできなくてもかまわない。お洒落も贅沢も必要ない。でも」


視界が滲み、膝の上で握り締めていた手の甲に、水滴がポタポタと零れ落ちたから。


「でも、せめて私をこの世に送り出した母親にだけは、味方でいて欲しかった。守って欲しかった」


だけどすぐにそれは、自分自身の瞳から流れる涙であった事に気付く。


「今までだって、いっぱいいっぱい、頑張って生きて来たんです。でも、もう、これ以上は無理なんですっ。母親から生まなきゃ良かった、役立たずだなんて言われて、そんな風に思われている事に気付いてしまった今、これ以上生きる気力なんか湧いてきやしませんっ」
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