ただ、そばにいて
□ウィンドスウェル
「よぉ、朝海」
「……いらっしゃいませ」
日曜日の午後にやってきた、見慣れた短髪の長身の男に、平静を装って他人行儀の挨拶をする私だけれど。
胸が鳴らすのは、ときめきの音ではなく“ギクリ”という擬音が相応しい。
なぜなら、偶然バイト中のナツがキッチンにいるから。
特に気にすることはないのかもしれないけれど、出来れば合わせたくはない。
「何だよ、そんなかしこまって」
「一応仕事中ですから。はい、ここに名前と連絡先書いて」
「ハイハイ。あ、連れは来るの夜になるから」
「そう。わかった」
いつものように接客し、ナツがまだ出てきませんように……と祈る。
そして、翔吾がペンを置いたのを見計らって、すぐに部屋へ案内しようと動いた。
「じゃあ、部屋は──」
「あ、いらっしゃいませ!」
あぁぁ、ダメだったか……
キッチンから出て来たナツが、愛想良く挨拶をしてこちらに歩み寄る。
私が内心大きなため息をついていることも知らずに。
「荷物お持ちしますよ」
「あぁいいよ、このくらい」
荷物を持とうとしたナツを制した翔吾は、私に顔を向け当然の質問をする。
「朝海、部屋どこ?」
──その時、ナツの表情が固まったのがわかった。
名前を呼び捨てで呼ばれたら、もう私達が知り合いだということはわかっただろう。
でもとりあえず、私は翔吾を部屋へ案内しなければ。