ただ、そばにいて
「そうだったの?」

「あぁ。その好きな相手がいとこっつーのにはちょっと驚いたけど」

「うそぉ!? それってまさか、近親相姦……?」



──やめて……!!


思わず叫んでしまいそうになる口を手で覆う。

近親相姦だなんて、そんな禁忌を犯しているわけじゃないし、私がただ想っているだけだ。

でも、他人から見たらそう思われてしまうようなことなの……?



「いとこ同士じゃそうは言わないだろ。実の姉弟ならともかく」



抑揚のない翔吾の声に、縮こまった私も少しだけ冷静になったものの、それはつかの間だった。



「別にいいじゃん、誰のことを好きになっても」

「えー、でも親戚だよ? なんか気持ち悪いっていうか……あたしは無理」

「そう。じゃあ俺にしとけ」



唇が塞がれたらしく、会話はそこまでで、彼らは再び二人の世界に入ってしまった。

哀しさと空虚感に襲われて、私は雨の中を歩き出す。皆がいる場所とは逆方向へ。


翔吾らしい言葉には救われるけれど、やっぱり彼女のように言う人の方が多いのだろう。

ナツも……その一人なんじゃないだろうか。

もしも私が恋愛感情を抱いていることを知ったら、今の彼女みたいに“気持ち悪い”と思われるかもしれない。

この想いは、抱くことすら許されないのかもしれない──。


味なんかしないはずの雨が塩辛い。

人々が走って屋内へ向かう中、私の足はとぼとぼと海岸へ向かっていた。


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