ツンデレ社長と小心者のあたしと……3
そうして散々いたずらな手に弄ばれた後。
まだ呼吸もままならないあたしに、社長がぽつりと言う。
「ここが今の俺の空、だな」
空?……と一瞬考えて、《空に会社》のことだとすぐに気付く。
やっぱり、いつかはオフィスの実態を無くすつもりなんだろうか。
「お前は空に行きたい?」
窓際にあるベッドからは、見事な夜景が広がっていた。
ネオンの明るさのせいで星は見えない。
広がるのは真っ黒な空。
唐突な質問の意味を計りかね、何も言えないあたし。
社長のいる空に行きたいか、という問いなのか、それともあたし自身が独立して空という会社に旅立ちたいか?という質問なのか。
それとも全然別の次元の、違う何かなのか。
どう返事をしようかと迷っていると、小さな寝息が聞こえてくる。
「寝ちゃった……んですね」
無防備な顔で眠る姿は、一人の少年のようだった。
今だけは、巨大過ぎるパワーのスイッチがふっと切れているみたい。
「あたしは……空でも、海でも……山でも、宇宙でも……社長のいるところがいいです」
身分が違い過ぎる恋心だから、普段は絶対に口にする事のない想いをおとぎ話のように呟く。
この先何があるか分からないけれど、社長とのこの時間を後悔しない自分になろう。
心にそう言い聞かせ、起こさないように少しだけ肌をすり寄せると、社長の隣で目を閉じた。
【END】
