ツンデレ社長と小心者のあたしと……3


オフィスから急いで家に帰り確認すると、自室の本棚に残っていたのは6冊の本だけだった。


どれも、夢中になって読んだ本達だ。


元々本好きではあるけれど、恋愛小説や、ファッションの本と並んでいる社長の著書コーナーはやっぱり異質な空間。

その、現実から切り取られたような雰囲気を、あたしは密かに気に入っている。


愛用しているパソコンの電源を入れると、都内の図書館にある蔵書を検索しながらリストの一冊一冊を発見していく。


あの性格の社長なので、自分の本をわざわざオフィスに飾ったりしないし、

「本は読みたい時に電子書籍で読めばいい」

と公言しているだけに、こうして探すのは一苦労。


だけど、この作業が何故かあたしは楽しかったりもする。


こんな本があったんだという懐かしさや驚き。
そして本の中にいる、あたしの知らない頃の若き日の社長に会えるから、かもしれない。


万が一書評に間違いがあってはいけないから、どれも一回は必ず読み返すつもりでいる。


しばらく寝不足になる事は間違いなさそうだけど、それがあたしの仕事。


……ところが。


最近出版したものは、全部見つかった。


一部購入する事にもなりそうだけれど、あたしの本棚にある異空間の幅が広がるのだと思えば悪くない。


それなのに、社長が初めて書いた本だけが、どうしても出てこない。


もうすでに本屋に無いのはもちろん、電子書籍化もされていない時代。
古本屋や、ネットオークションで探しても見つかる気配はない。


まだ社長が有名になる前のものだから、発行部数が少なかったのだろう。


仕方なく、《空に会社》というこの本の説明文だけを探し出した。


会社員という職業についたなら日々の生活の隣に会社があり、それに依存している事もある。

だがそれは虚像で、オフィスが雲の上の手の届かない所ににあったとしてもビジネスは問題無く成立し、世の中は回っていく……。


そんな内容。


確かに、今の会社の出社状況を見れば確かにオフィスの存在価値は薄い。

いつかはネット上のやりとりだけで、全てを完結してしまう事すら社長ならやりかねない……と思う。


だけどあたしは……そうなったらきっと少し寂しい、とも思う。



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