新選組異聞 幕末桜伝
第二話 新選組の鬼
「あいつ、次勝手な真似したら、俺がたたっ斬る。」

土方はひどく苛立った様子で、乱暴に襖を閉めた。部屋の中では近藤がまたかといった様子で座っている。


「そんな物騒な事…、本気で思ってる訳じゃないだろう?」

「はっ、どうだかな。」

煙管を銜えて、ぼんやりと遠くを眺める。どれだけ怒鳴ろうと顔色一つ変えない女。例え胸倉を掴まれたとしても屈する事なく、さくらは冷たい眼差しで土方を射抜いていた。試衛館(しえいかん)時代からの馴染み、近藤・山南・沖田の前では柔らかな表情を見せているというのは土方も知っている。


だが、なぜ自分にはとは思わない。


それは土方が、さくらの唯一の弱みを知っているからだ。


思い出したくない過去。その全てを知っている土方を、さくらは疎ましく思っていた。土方とて、さくらが数人の浪士を相手にした所で負けるはずがない事など解っている。口では斬ると言っていても、自分ではさくらに敵わない事も…。


頑なに孤立と孤独を望む理由を知っているからこそ、そこから引き上げる事ができるのは自分だけなのだと、土方はそう思っていた。

彼にとって、さくらは今でも、自分の背中にしがみ付いて震える、子供のまま。毎日、死にたいと泣き、刀を持っては斬る相手を無闇やたらに探す、手に負えないただの子供。


その子供を、危険と知りながら連れてきてしまった責任がある。それは、目の届く範囲で、支えようと思っての事だったが、泣く事を止め、一つずつ感情を捨てていくさくらを側で見ていながら、どうする事もできなかった。

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