謝罪のプライド

「おかえりなさい。ビール冷えてるよ」

「おう、くれ。いい匂いだな」

「もう出来るよ。私も飲みたいからちょっと待てる?」

「待てん。先に飲んでる」


勝手に冷蔵庫からビールを取り出し、私の肩をポンと叩いてリビングへ向かう。
相変わらず自分勝手な浩生。時々ムカつくなって思うこともあるけど、彼の背中を見ているだけで、まあいいかという気にもなってくる。


「そういえばさ、今日大変だったんだよ。ほら、コールセンターから一人新しい子来たって言ったでしょ? その子、今日クレーム受けて対応失敗して、私が変わってあげたんだけどさ。その途端もう自分の仕事じゃないみたいな顔してさ」


私がぶーたれたまま振り向くと、浩生はビール缶を傾け、喉を鳴らしながら飲んでいた。


「マジ? 災難だったな。俺そういう女、嫌い」

「だよねー」


返答に満足して、私は味噌汁に味噌を入れる。
そういうのを不快に思う感覚が彼と一緒なことがなんだか嬉しい。


「はい。お待たせ」

「おー、旨そう」


歓声をあげる浩生の前に、皿や茶碗を順々に載せていく。
最後に、自分の分のビールを持って浩生の向かいに座ると、彼はもう先にブリの切り身を口に入れていた。


「ひどっ、私が作ったのに、待っててくれないんだ」

「責めるなら旨そうなもん作った自分を責めるんだな。目の前に出されて我慢できるわけないだろ」


不遜な表情で、浩生は笑う。謝らない男は健在だ。
でも、私は彼を憎めないし許せてしまう。ううん、それ以上にときめかされる。
彼と話すたびに、私は彼に落ちていくような気がするのだ。


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