謝罪のプライド

「言う必要がないと思ってた。変な同情はいらないし、実際俺は何も不幸じゃない。親は俺が成人するまでちゃんと育ててくれたし、母親がいなくなってからも俺にはおばちゃんがいた」

「でも」

「人に頼らなくても、俺は生きていける」


彼は人に頼らないために、どれだけの努力をしてきたのだろう。

膨大な知識、判断力、行動力、ミスを犯さない注意深さ。
何もかもを自分でやらなければという感情が、彼にそれを身につけさせたのか。

それこそ、彼を“謝らない男”と言わしめるまで。


「……頼らなくてもいいから、甘えてみてよ」


ぽろっとそんなことを言ったら、彼は呆れたように笑った。


「それはもうしてる」


その反応に、目で疑問を訴えると彼は照れたのか、私の頭を布団ごと胸に抱え込んだ。
ムワッと熱気が広がり、顔がほてってくる。


「甘えてなきゃ、夜中にいきなり飯を出せなんて言わないって」


照れたようなくぐもった声は、彼の心音と共に私の耳に届く。


今まで彼が私に見せてくれていた全ては、私だけのものだったのだと、この時初めて気づいた。




< 174 / 218 >

この作品をシェア

pagetop