謝罪のプライド


「おはようございまーす」


噂をすればなんとやらで、坂巻美乃里が香水の匂いをつけて入ってくる。


「おはよ。坂巻さん、ちょっと臭うよ」

「わかります? 新作コスメなんですけど。ほらー、これ限定なんですよ。いい匂いでしょう」


違うだろ。褒めたんじゃないよ!
噛みつきたくなったけれど、一応言語を有する人間に生まれたからには言葉で説得する。


「うん。いい匂いだけど。でも社内はいろんな人がいるの。それを良くない香りって思う人もいるよね? 私はできれば香水系は会社にはつけてきてほしくないな」


美乃里はキョトンとした顔で私を見ると、次の瞬間にはシュンとうなだれた。


「えー、そうですかぁ。はぁい、明日からやめますね」

「うん。分かってくれればいいの」


ああでも、意外と素直でもあるなぁ。そこは彼女のいいところなのかな?


「来週からは他の部署での研修も始まるからね。他のところじゃ厳しく言われることもあるんだから気をつけて」


すると今度は元気を取り戻り、しゃきっとして顔をあげる。


「はい。技術部に行くのはいつですか!」

「技術部? どうして?」

「だってあの九坂さんのいる部ですもん。一度お話してみたいんです」


胸の一部がチリリと痛む。

嫌だな。こんな子に浩生の前をうろちょろされるのは。
でもそんなこと言えない。社内恋愛が禁止というわけではないけど、なんとなく内緒にしているから、公言するのもためらわれる。

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