謝罪のプライド

そして会社は第二の私を育てようとしている。
白羽の矢が建てられたのが、コールセンターで評判の良かった坂巻美乃里だ。

今月頭からこのヘルプデスクにやってきていて、来週からは他部署での実習が待っている。

しかし実際本人に会ってみると、本当に苦情処理をやってたの? と言わんばかりのこの対応。
これから彼女を自分が育てていかなきゃいけないのかと思うと、ため息ばかりがこぼれ出る。


「新沼さん、これでどうでしょう」

「見せて」


美乃里の丸っこい字で書かれた内容に一瞬引く。


「……お客様の態度まで書く必要ないの。事実だけを書いて」

「えー、でも。お客様が威圧的だったのも事実じゃないですか!」

「いいから。初期不良で、部品交換にて対応って書けばいいのよ。こっちの対応にも問題あったからあっちが怒るんでしょ。お客様ばかり非難するのはおかしいわ」

「ええ? だってそしたら私が悪いみたいじゃないですかぁ」


悪いんだよ。
突っ込みたいけど、ここではっきりそれを言ったらやる気を失わせるのかしら。


「悪いなんて誰も思わないわよ。あなたは今勉強中なんだから、一つ一つの事例から沢山学んで欲しいの。頑張って」


本音は半分くらいしかない体の良い言葉を並べて、なんとか美乃里のやる気を促す。

ああ、大変。
人を育てるのって難しいんだわ。



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