謝罪のプライド

「もし良かったらこれを登録しておいて」

渡されたそれには、電話番号が書いてある。

一瞬ぎくりとしつつ、元同級生だからおかしなことはないか? と考え直して彼に笑いかける。

「あ、ありがとう。私のは」

「知ってる。前にご注文頂いた時に聞いたから」

「あ、そうだね」

「でも、それを使ってかけるのはフェアじゃないなと思ってた。今度かけてもいい?」

「え?」


まっすぐ見つめられて、心臓が飛び出しそうになった。

え? ちょっと待って?
それってどういう意味?
そういや、亜結もそんなようなこと言ってたし。

急に意識してまじまじと見つめていると数家くんが笑い出す。

「今度俺の相談ものってもらえないかなって」

「あ、そういうこと? いいよいいよ! もういつでもかけてきて!」

いやー、こっ恥ずかしい。
そういう電話かよ。
自意識過剰な女って思われたんじゃないかな。

「ありがとう。じゃあ、気をつけて。新沼さん」

「うん。こっちこそありがとう」

「またのご来店お待ちしています」

最後は営業スマイルでしっかり会釈して、数家くんは再び裏口から戻っていった。

流石に裏通りに一人でずっといるのは怖いので、私も小走りに表通りにまで出る。
まるで別世界に抜けだしたかのように、街灯が眩しく感じられた。

「とにかく、早く帰ろ」

ここで浩生や美乃里と出くわしては、わざわざ裏口から抜けだした意味がない。
駅についてすぐにやって来た電車に乗り込んで、ようやく安堵の溜息をついた。


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