桜雨、ふわり。

そのまま去って行こうとする彼に、あたしは思わず駆け寄っていた。


「あ、あの! それとっても素敵な絵だね!この桜の木?」


彼の手元のスケッチブックを指差して言うと、森崎くんは「まあね」と頷いてくれた。


……でもそれだけ。
歩き出した森崎くんの背中を眺めながら、ふと思い出した。




どうやら、噂は本当みたいだ。


森崎くんって、見た目すごくかっこいいんだけど。
無口って言うか、あんまりおしゃべりが好きじゃないみたい。

ジャージ姿に、寝癖みたいな髪にヘッドホンつけてて。
いつも気だるそうにしてるし、笑ってる顔とか、誰も見た事ないって。


それに、なんだか近寄りがたいオーラを纏っている。

だから、彼はいつもひとりだった。



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