桜雨、ふわり。
あたしは彼の手に、画材道具が握られている事に気付いて、思わず森崎くんを見上げていた。
「も、森崎くん! 今度、絵描いてるとこ、見てもいいかな?」
そう言ったあたしに、森崎くんの瞳が一瞬見開いて。
それからちょっとだけ困ったように視線を逸らして。
でも、ポツリと小さく
「別に、いいけど」
ってそう言ってくれたんだ。
だって、すっごく興味があったんだもん。
あんなに素敵な絵を、この人はどうやって描いてるんだろうって。
こんな絵を描く森崎くんは、いったいどんな人なんだろうって。
―――それが、あたしと彼の出会い。
きっと、森崎くんにとってはすごく迷惑な女だったに違いない。
だって、あたしはそれからというもの、お昼休みになれば森崎くんの姿を探して歩き回ったんだから。
でも森崎くんを見つけるのは、いつも大変だった。
普段は生徒がいかないような場所で、お昼寝してたり。
ヘッドホンを当てながら、小さなノートにデッサンしてたり。
どこにいてもやってくるあたしを見て、森崎くんはいつもチラリと視線を動かしてなんだか迷惑そうにしてた。