甘く熱いキスで
「ここで暮らしているの?」
「えぇ。食事やシャワーは軍の待機所に行けばなんとかなりますし、今の季節なら寒くて凍えることもありません。それよりも、ユリア様はどうしてこちらに?」

ベッドに毛布を敷き、ユリアを座らせてくれたライナーは自分もユリアの隣に座るとそう聞いてきた。

「カペル家の……貴方のお父様に会ったの」
「……そう、ですか」
「こんなのひどいわ」

ユリアの瞳から涙が零れ落ちる。自分は最近泣いてばかりだ。それも、自分の浅はかさから招いてしまった結果を嘆いて泣くだけ――19歳とは思えないほど子供な行動に呆れてまた悲しくなる。

自分がこんなにも無力だと知らなかった。どんなに自分を肯定しようとしても、結局はヴォルフやフローラ、それに城の皆に守られて育ってきた外の世界を知らない王女だったのだ。

ずっと、すべてを与えられてきた。けれど、今回は……ヴォルフも手伝わないと最初に言っていたし、周りの協力は皆無だ。ユリアが自分で足掻いてなんとかしなければならない。

でも、ユリアにはどうしたらいいかまだわからなくて……

「どれくらい、ここにいなくてはいけないの?」
「父上の気が済むまででしょうか。こちらの父上は早くカペル家へ戻って欲しいみたいですが」

ライナーは言いながら小屋の壁に視線を向けた。窓はないけれど、その方向にはビーガー家の本邸がある。

「私にできることは……」
「そのお気持ちだけで十分です。こうして会いにきてくださって……城を抜け出すのは大変だったでしょう」

ライナーはユリアの頬に手を添えて微笑む。ライナーの手は冷たくて、ユリアは自分の手をそれに重ねた。
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