甘く熱いキスで
先ほどの兵士は、至る所に設置されているそれぞれの的に近づいて呪文を放っていたけれど、ライナーは真っ直ぐゴールまでの最短距離を走りながら呪文を飛ばしていく。1つ、外した的があったものの、タイムは前走者より10秒近く早い。

ゴール付近で部隊のリーダーと話し込んでいるライナーは、しばらく彼の話を頷きながら聞き、頭を下げて待機場所に戻っていく。

他の兵士たちはライナーが戻って来ても、特に声を掛けることもせず、次にスタートした兵士に視線を向けてしまった。先ほどの兵士には、声を掛けたり肩を叩いたりしていたのに……

新入りはいじめられるものだとアルフォンスが言っていたのを思い出し、ユリアは眉を顰めた。プライドが高いフラメ王国の軍人のことだ。入ってきたばかりのライナーが自分たちより良い成績を出すのが気に食わないのだろう。

だが、実力は才能だけではなく、努力で押し上げることができるのも事実である。ライナーの扱いに納得のいかないユリアは、他の兵士たちに文句を言ってやりたいと思ったけれど、演習中の今は彼らに近づくことができない。

ユリアは拳を握り締めて、残りの演習を見学した。ライナーほどにユリアをわくわくさせる走りを見せた者は、いなかったけれど。
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