甘く熱いキスで
ライナーの茶色い瞳の奥は、不思議な光を宿しているように見える。

軍人としての癖なのか、真っ直ぐな視線には少し攻撃的なものがある気もしたし、強い眼差しは鋭くて冷たいものを含んでいる。

「私が貴女と仮面舞踏会でキスをした、とおっしゃいますが……それをきちんと証明せずに求婚されるのは、少々不用意ではありませんか?」
「そんな間違いはしないわ。貴方から感じられる気の質は、あの夜の呪文と同じだもの」
「なるほど。しかし、結婚というのは、話が飛躍しすぎです」

ライナーの口調には、少し柔らかさ――否、“呆れ”という響きが加わる。ユリアはムッとして口を尖らせた。

「今すぐじゃなくていいって言ったじゃない。私は、貴方を知る期間が欲しいの。貴方にも私を知って欲しいし、そうしてお互い仲良くなれたら――」
「ユリア様。私がフラメ城に滞在するという意味、おわかりですか?私が貴女に招待を受けたとなれば、議会は黙っていません」

ユリアの夫という地位が、彼らにとってどれほど大きな意味を持つかくらい、ユリアにもわかっている。

「何より、ヴォルフ様やフローラ様がお許しにならないでしょう」
「お父様はいいって言ったわ!貴方ときちんと向き合って、最終的な結論を出すようにと言ってくれたのよ」

ユリアが反論すると、ライナーは眉間に皺を寄せて懐疑の目を向けてきた。ユリアは「本当よ」と言って念を押す。

「……“カぺル家”の長男として、ということでしょうか」

小さく呟いたライナーは軽くため息をつくと、いくらか表情を和らげて「わかりました」と言った。

「ほんと――」
「ダメだ!」

嬉しくてユリアが思わず椅子から立ち上がった瞬間、バンッと大きな音がして客室の扉が開く。ライナーもゆっくりとそちらへ顔を向け、大股でユリアに近づく彼を視線で追った。

「キスだか運命だか知らないが、俺は認めない!そんなものでユリアの結婚を決めるなんてバカげてる!」

そう言ってユリアの身体を引き寄せたのは……アルフォンスだった。
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