甘く熱いキスで
器用にチキンのソテーを切って口に運んでいく様は、本人が身分を気にしている割に“上流階級”の所作だ。

15歳でカぺル家に入って数年で身に着くものとも思えない、彼の話し方や細かな動作……ユリアは、彼がどのような環境で育ったのか興味を持った。

ライナーに辿り着いて、彼の経歴は簡単に調べた。けれど、得られたのはカぺル家に養子に入ってからのことだけで、以前のことはわからないままだ。彼が社交界に出てきたのは、彼が“カぺル家の後継ぎ”という身分を得てからであるので当然と言えばそうなのかもしれない。

もっと詳しく調べることもできないわけではないけれど、きちんと彼と面識を持つ前に個人情報に踏み込みすぎるのは、王女とはいえさすがにユリアでも失礼に当たるだろう。

本人に直接尋ねるなり、もう少し彼と仲良くなって本当に彼がユリアの婚約者になる可能性が出てきたら調べることにしようと……ユリアは決めていた。

「ライナー」
「はい?」

ユリアが手を止めて呼びかけると、ライナーも顔を上げて食事を中断する。

「貴方に話っていうのはね……」

遠回しに言っても仕方ない。ここはストレートに言うべきだろう。ユリアはクッと顎を引いて真っ直ぐにライナーを見つめた。

「私と、結婚してほしいの」
「結婚……ですか?」

ライナーは困ったように眉を下げて苦笑いをする。少し、話を飛ばしすぎただろうか。

「今すぐじゃないわ。仮面舞踏会の日、貴方とキスをして……惹かれるものがあったの。しばらくフラメ城に滞在して、私と一緒に過ごしてもらえない?」

ライナーは静かにフォークとナイフを置くと、ユリアと目を合わせてくれる。その瞬間、ゾクリとした感覚に襲われて、ユリアは思わず唾を飲み込んだ。
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