甘く熱いキスで
“火がつく”というのは、溶けてしまいそうなほどだという意味だったのだろうか……

ちゅ、っと今までの比ではない甘美な音と共に離れた唇は暗がりにも濡れていることがわかって、ユリアは羞恥に頬を染めた。キス魔だなんて言われているくせに、深く繋がるキスは初めてで、恥ずかしい。

今まで、王女であるユリアにこんな強引なキスをした男はいなかった。夫の座を狙いながらも、皆、どこかでユリアの機嫌を損ねることを恐れ、遠慮していた。ユリアが「ごめんなさい」といえば、それが彼らにとっての絶対だった。

それなのに……

「今度こそ、魔法が解けるようですね」

先ほどまでの力強さからは一転、物腰柔らかな雰囲気に戻った男はユリアの頭をそっと撫でて、それから手の甲へキスを落とす。同時にカツンと響いた聞き慣れた靴音は、ユリアを現実に引き戻した。

「お取り込み中失礼致します。お帰りの時間ですよ」

イェニーは、男を一瞥してからユリアに視線を向けてきた。ユリアはまだクラクラする頭でイェニーを見て、それから立ち上がって会場へ戻ろうとする男に気付いて慌てて立ち上がった。

「ま、待って!貴方をお城に――」
「いいえ。私はそのような身分にはありません。今夜のことは、魔法がくれた特別です」

少しだけ振り返って、そう言った男は会場の眩しい灯りの中へと吸い込まれるように歩き去って行く。

「っ!身分は関係な――」
「ユリア様」

彼を追いかけようとしたユリアの腕をイェニーが掴む。だが、イェニーはユリアを見てはおらず、小さくなっていく彼の背中を睨みつけていた。
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