甘く熱いキスで
「お帰りの時間です」

いつになく硬い口調で言ったイェニーに、ユリアは思わず頷いてしまう。それから、すでに見えなくなった彼の姿に落胆し、冷めない唇の熱を確かめるように指先で唇をなぞった。

今もまだじんわりとユリアの身体を巡るキスの余韻は、「火をつける」という表現にピッタリだと思った。

ユリアは先ほど男がキスを落とした手の甲に口付けた。すると、その部分がじわりと熱くなって、ユリアの中へと声が響く。

『でも……貴女が私を見つけてくださったなら、私はシンデレラになれるかもしれません』

ユリアを試すような言葉と声色。咄嗟にイェニーを見上げるが、まだ会場の方を気にしているらしい彼女に声は聴こえていなかったようだ。

そうだ。ヴォルフはフローラを探し当てて城へ招いたのだと伯母が言っていた。それなら、ユリアもそうすればいい。

少しやっかいなのは、議会の説得だ。

フラメ王国の議会は、両親の頃とは違って議会内の派閥対立は落ち着いている。議会の2大勢力であるタオブンとファルケンのどちらもが、両親の結婚の際にいろいろと騒動を起こしたせいらしい。

そのせいで力を落とした彼らが、再び派閥を盛り上げるための手段として考えているのがユリアやユリアの兄弟――フラメ王家の血を引く王子王女――との結婚だ。ユリアがあの男を望むことで一波乱起こることは間違いないだろう。

それでも……ユリアは手の甲に残る彼の気の気配をしっかりと記憶に刻みつける。

やっと見つけた、運命の人――ユリアに火をつけてくれる人。絶対に、捕まえてみせる。
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