甘く熱いキスで

王子様の落し物

キン、という金属音があちこちから聴こえてくる。その音に混じっている怒声は普段より多く、それでも男たちは、いつもなら空席の見学席を気にして1つ、また1つと切り傷や打撲を増やしていく。

そんな様子を見ながら、ユリアはため息をついて立ち上がった。

すると、一番近くで剣を交わしていた男が「うっ」と呻いて膝をつく。

「おい、そこ!気を抜くな!」
「す、すみませ……っ」

腕をかすった剣は、少し深く肌を切り裂いたようでユリアからも赤く滴る血が見えた。待機していたクラドール――医者――が治療する様子を半ば呆れた気持ちで見ていると、遠慮がちに顔を上げた兵士と目が合う。

彼はユリアと視線が繋がった瞬間、バッと顔を真っ赤にして俯いた。それを見て、ユリアはまた大きくため息をついて訓練場を後にした。

ユリアの“運命の人”がフラメ王国の軍に所属しているだろうと見当をつけたのは、彼の気の使い方が彼らに似ていたからだった。鋭く濃い気を練る訓練は基本であり、一番に習得しなければならないものだ。

それに、彼の気の消え方は、痕跡を残さないようにという教えを忠実に守っていた。ユリアにそれを覚えさせる時間まで計算して呪文を掛けていったあの男は、相当の呪文使いだと言える。

ところが、苦手な早起きまでしてやってきた朝の稽古で会えたのは、確かに昨夜の男ではあるが無駄になってしまったキスの方の男だ。

「もっとわかりやすく、靴くらい脱いで行ってよね!」

大股で城への道を歩きながら愚痴って、ユリアはあくびをした。とにかく眠い。昨夜、仮面舞踏会から戻ってきて数時間しか寝る時間がなかったせいだ。
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