最高のご褒美

これって、これって、これって……!?

私の勘違いじゃないよね?

私の思い上がりじゃないよね?

心臓はもう破裂寸前。

私は何も言えなくて、ただ黙って戸波さんの言葉を待った。

「藤倉さん」

「は、はいっ」

「俺、藤倉さんと真剣に付き合いたいと思ってる」

「はいっ」

「もし付き合ってる人とかいないなら……俺とのこと、考えてみてくれないか」

「はいっ」

「もちろん返事は今すぐでなくていいから。本当に、ゆっくりでいいから」

「はいっ」

「あのさ――」

「はいっ」

「さっきから、"はいっ"ばっかりなんだけど……」

「ああっ。えーと…………はい」

私、恥ずかしすぎる……。

性懲りもなくまた「はい」なんて。

戸波さんはそんな私を見て愉快そうに笑った。

楽しそうに、どこか嬉しそうに、仕事中には見せたことのない表情(かお)で。

「藤倉さんのそういうところも好きだよ」

「えっ」

今、"好き"って……。

戸波さんが好きって、私のこと。

好きだよって言ってくれた。

「真面目でまっすぐで……可愛くて」

「そんな……」

「藤倉さんが好きだよ、本当に」

戸波さん……。

誠実で率直で男らしい、戸波さんらしい告白だと思った。

戸波さんこそ、真面目でまっすぐで。

誰にでも公平で思いやりがあって、誰よりも努力家で。

ちょっと硬派な見た目のわりに、実はけっこうな甘党で。

そんなところがまた愛らしい、とっても愛おしい人。

「唐突だよな、俺。それに仕事中なのに」

「いえっ……」

「いきなり困らせて……すまない。ごめんな」

決まり悪そうに伏し目がちになる戸波さん。

私、ちっとも困ってなんかいないのに。

すっごく驚いたけど、嬉しい気持ちっていっぱいなんだから。

だから――勇気を出して全力で言った。

「あやまらないで下さいっ。あの、私……とても、とっても嬉しいです。戸波さんが私のこと、見ていてくださって。だから、ですからその……私で、よければ――」

頑張って、頑張って、頑張って、やっとの思いで伝えた。

「藤倉さん」

「はいっ」

机越しでちょっぴり遠いけど、戸波さんと見つめあえた。

と、思った瞬間――。

「あっ」

「紙切れ、だな……」

あろうことか……なんとも言えないタイミングで、プリンタが"ピーピーピーッ"と用紙の補充を催促してきた。

「私、やりますね」

「あぁ、頼むよ」

なんだか水を差されちゃったみたいな。

でも、おかけでちょっと気持ちを緩めることができたような。

あたふたと用紙の補充をする私の背中に向かって、戸波さんは朗らかに言った。

「早速だけど、今晩一緒に飯でもどう?」

「はいっ。ぜひ一緒に」

私が振り返って二つ返事でOKしたのと同時に、プリンタは快調に印刷を再開した。

「よっしゃあ!俄然やる気でてきたぞぉ!絶対に早く終わらせる」

「はいっ」

「食べたいもの、考えておいてな」

「はいっ」

「ほんと、"はいっ"ばっかりだな」

「あっ……。うぅ、もう指摘しないでくださいよぉ」

無邪気に笑う戸波さんに、私もつられて一緒に笑う。

二人は、こんなふうに始まった。



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