後悔なんて、ひと欠片もない
お腹の空いていた私は、肉や野菜の焼ける匂いを嗅いだだけで、すっかり警戒心を解いてしまった。
仕事帰りのサラリーマンで賑わう店内。
テーブル席はもう空いていなくて、カウンター席に並んで座った。
和史さんは、メニュウを広げ、リラックスした様子で「何にする?」と私に訊いた。
まるで昔からの知人みたいに。
壁の上に貼られた短冊を見上げる和史さんの横顔のまつ毛が、意外に長いことに私は気付いた。
ビールで乾杯の後、和史さんは
「少しあちぃな」と言って着ていた薄手の赤いジャンバーを脱いだ。
わおっ…!
私はビックリした。
長袖のTシャツを着ていても、和史さん
の筋肉隆々の躰は分かったから。
たったジョッキ半分のビールでほろ酔いになってしまった私は、そこを突っ込まずにはいられなかった。
「すっごい鍛えてますね……ミケランジェロのダビデも真っ青って感じ」
和史さんはフッと笑ってから、私の方に左腕を差し出した。
「触ってみる?お金取らないから」
和史さんのジョークに私は、プッと吹き出してしまい、大笑いしてしまった。