溺愛御曹司に囚われて

「そうなの。お父さんの種本隆盛は天才と言われたピアニストで、その演奏のあまりの上手さに”種本隆盛には悪魔が乗り移っている”って言われてたんだって」

「なんか、うらやましいくらい恵まれた親子ね」


その天才ピアニスト・種本隆盛の子どもが、今回取材をする種本月子だ。

当然幼い頃からクラシック音楽に触れて育ち、自分も父親と同じピアノを選んだ。
天才ピアニストの子どもとして注目され、そしてすぐにその頭角を現し神童とうたわれる。

”悪魔のピアニスト”の子どもは、なんとも可愛らしい”鍵盤の天使”。

ジュニアコンクールの賞を総舐めにし、何度かオーケストラのコンサートにもゲストとして出演している。
そして秋音さんの出身校でもあり、多くの音楽家を輩出する桜庭学院音楽大学へエスカレーター式に入学。

ピアニストとしての将来は既に約束されたようなものだった。


「でもこの記事、すごい書かれようね」

「うん、そうなんだよね」


実衣子はいつのまにか私からパソコンのマウスを奪い取り、種本月子に関する記事を夢中で読んでいる。


「ひどいね。”鍵盤の天使は地に堕ちた”って、なにもそこまで書かなくてもいいのに」


ついさっき私が途切れ途切れで読んでいたこの記事は、半年前のコンクールの講評記事だ。
種本月子が一番最近出場したコンクールでもある。

かつて神童とうたわれ、着実に経験を重ねてきた彼女にとって、最優秀賞はほぼ確実と予想されていた。

だけど種本月子はこのコンクールで、異例の失敗をしたのだ。
予選の課題曲演奏中に、それまで華麗に鍵盤の上を駆け回っていた指が突然止まってしまった。


「このとき、どんな気持ちだったんだろう」


騒然となる会場、止まってしまった音楽。
聞こえるのは、ひどく嫌な音をたてる自分の鼓動だけ――。

< 40 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop