溺愛御曹司に囚われて
『浮気調査なんて言っちゃったけど、そんなに悩むくらいなら直接聞きなさいよ。なにをそんなに躊躇するのかわらかないけど、私が高瀬くんなら、なにも言わずに勝手に悩まれてるほうがイヤ。好きな相手が苦しんでるとき、自分が必要とされないなんて悲しいものでしょ』
ちょっと寂しそうな顔でそう言われて、今の私は高瀬のことも実衣子のことも、悲しませているのかもしれないと思った。
高瀬が浮気をしている事実より、私が行動を起こしたせいで彼を失うことが怖い。
息継ぎなんていらないから、私はこの曖昧で甘ったるい関係にいつまでも溺れていたい。
ずっとそう思っていたけれど、このままなにも見ないふりを続けることに限界があるのもわかっていた。
「聞くだけなら大丈夫。ほんとに、聞くだけ」
私はその言葉を呪文のように唱えて自分を落ち着かせる。
別に、他の女性のところへいかないでって言いたいわけじゃない。
本当に彼を失うことに比べたら、浮気くらいどうってことないはず。
多くを求めて一番失いたくないものを失っては、元も子もないのだ。
今の私には、それがわかっている。
もう激しい恋心を制御できなかった、高校生の頃の私ではない。
今、私が一番失いたくないのは高瀬だ。
それを忘れなければ、きっと大丈夫……。
何度も何度も言い聞かせ、高瀬の帰りを待っていた。玄関のドアがガチャリと開く音がする。
「ただいま」
私はスッと背筋を伸ばした。
高瀬の声を聞きつけた耳がピーンと反応し、もう一度しっかりベッドの上に座り直す。
靴を脱いで、高瀬がリビングに入ってくる音が聞こえる。
「小夜? そっちにいるのか?」
私はひとつ、小さく息を落とした。