溺愛御曹司に囚われて

知らぬ間に、涙が零れていた。

だけどきっとこれは、高校生の頃の私の涙。
今やっと、先生と一緒にこの恋に終わりを告げることができたんだ。

ふたりの恋が消えたことを実感しても、もう私の心は痛まない。

大切にしていた初恋が完全に終わってしまっても、私の中には、高瀬が絶えず注いでくれたあたたかなぬくもりが宿っている。

これがある限り、私はなにを失ってももう怖くはない。
そしてこの気持ちは、たとえ彼自身を失うことになったとしても、きっと私をあたため続けてくれるだろう。

高瀬は、欠けてしまった私の心に、一生懸命自分のそれを与えてくれていたのだ。

一ノ瀬先生を失って空いた部分はもうとっくに埋まり、高瀬への想いであふれ返っていることに、私は気が付いていなかった。

今度は私も、高瀬にとってそういう存在になりたい。

確かな思いが私の胸を満たす。

涙でボヤける視界をそのままに、隣に立つ先生を見上げた。

この瞬間から、私と先生の間のあの懐かしさも切なさも消えていく。
昇華させることのできた想いに震える私を見て、先生がいたずらっぽく笑った。

楽しそうに細められた切れ長の瞳が近づいてきて、一瞬のうちに掠めるようにキスを奪った。

私は呆気にとられてポカンとする。


「え、今これで終わりだって、い、言ったのに」

「これくらいは役得だろ? あいつには言うなよ、殴られるから。まったく、俺がどんだけ敵に塩を送ってやってると思ってんだ。とんだお人好しだよ」


先生はそう言って私のおでこをピンと弾く。
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