溺愛御曹司に囚われて
「わるい。もう俺にはこんなことする資格ないよな。俺はあの記事のせいで小夜を不安にさせて、傷つけて、そして今のお前には一ノ瀬がいる。俺がふたりを引き離したんだってことはわかってたんだ。ずっと小夜を苦しめていたのは俺だ。わかっていて、手放せなかった。だけどもうお前は胸を張って、一ノ瀬を好きだって言っていいんだ。あいつが戻ってきたなら、俺は約束通り小夜を手放して、あいつに返してや……」
「好きだよ」
高瀬の声を遮って、私が一番伝えたかったことを伝えた。
ようやく本当の気持ちを言葉にすることができた。
私は初めて、高瀬に“好き”だと言った。
高瀬を失ってしまうことがあまりに怖くて、ずっと自信が持てなかった。
彼を好きだと認めてしまったら、私の気持ちにはきっと歯止めがきかなくなる。
他のなにをおいても、彼を求めてしまうだろう。
そうしてまた、大切な人を失くすことに耐えられる自信がなかった。
だけど今は、胸を張って言える。
「私が好きなのは、高瀬だよ」
ずっと側にいてくれた彼に、私も同じくらい大きな気持ちを返したい。
その思いが、私を強くしてくれる。
目を伏せて悲痛な表情をしていた高瀬が、耳を疑ったようにピタリと固まった。
黒い目を見開き、彼がゆっくりと顔を上げる。
信じられないというように驚愕の表情を浮かべる高瀬と目が合い、私はあたたかい気持ちで微笑んだ。
高瀬が途端に顔をクシャリとゆがませる。
「本当に、俺でいいのか。今ならあいつを選ぶことだってできる」
柄にもなく弱気な高瀬に首を振り、私は彼の腕に触れた。
高瀬の肩がピクリと撥ねる。
「私が抱きしめてほしいのは、もうずっと高瀬だけなの。今までちゃんと言えなくてごめんね。好きだよ。誰よりも、高瀬だけが好き」
今まで言葉にできなかった分を取り戻すように、私は何度でもその言葉を口にする。
困惑して怯えるような漆黒の瞳を間近で見上げ、彼を安心させるように笑った。