溺愛御曹司に囚われて
高瀬がつられてあきらめたように笑い、はしゃいだ子どもみたいにぎゅうっと私を抱きしめる。
「なんか俺、すげえ幸せだ!」
途端に上機嫌になる彼に抱きつかれながら、私はくすくすと声をもらして笑った。
頭上には星が瞬きふたりを照らし、その横では丸い月が私たちを見下ろしている。
穏やかな夜に一陣の風が吹き、私の黒い髪をさらった。
その風がふたりを包み、やがて辺りを駆け抜けて庭園に大きな波を立てる。
揺れる木々と噴水の音が重なって、耳にさざ波の音が聞こえてくる。
星降る夜の午前二時、人魚の岬でキスを交わした恋人たちは、永遠に結ばれる。
私たちは互いに見つめ合い、引き寄せ合い、目を閉じて、溶け合うようなキスをした。
ふたりはきっとこの先も、互いのぬくもりを失わない。
私があなたのそのあたたかさを、決して絶やしはしないから。
手をつないで歩いた帰り道。
会わなかった数日間になにがあったのかを報告し合ったあと、ムスッとした高瀬が言った。
「俺、ずっと小夜に言いたかったことがあるんだ。もし俺のこと、本気で好きだって言ってくれんなら、そろそろ名前で呼んでほしいんだけど。高校生の頃、俺のいないところではあいつのこと名前で呼んでたの、知ってんだぞ」
私は高瀬のヤキモチに驚いて笑った。
そんなことを気にしていたのなら、言ってくれればよかったのに。
高瀬を名前で呼ばなかったのは、ただきっかけがなかったってだけだ。
でもまあ、いいの。
これからは息継ぎをする暇もないくらい、私があなたを満たすから。
「深春、大好き」
幸せすぎて息が止まるほどの甘い夜にも、困難に互いを見失うほどの嵐の夜にも、私はきっとあなたの手を離さない。
だからどうか、いつまでも私に溺れていてね。
【完】


