【完】女優橘遥の憂鬱
 監督と社長とはるかさんの関係は、絶体に知られてはならない。
果たして、俺は嘘を付き続けることが出来るのだろうか?

でもやらなければならない。
俺は、愛の鐘の前でもう一度誓おうと思った。

でも彼女は俺を探しにやって来た。
その時大事なことを忘れていたことを思い出したんだ。




 俺は彼女に手招きをして誘い、ハートのお花畑の前に来ていた。
それは海翔君と決めたルールだった。

其処に咲く花で花嫁に贈る髪飾りを作るためだ。


「愛してる。愛してる。もう離さない」

彼女の頭にそれを乗せ、強引に唇を奪った。

隣りでは、海翔君とみさとさんがキスをしていた。




 「それじゃ私達も」

そう言いながら……
二人の社長がキスをした。

呆気にとられている俺達に向かって、二人は静かに微笑み掛けた。


「やっぱし、結婚することにした」

同時に言う二人に、俺達は仰け反った。


「えーっ、マジか!?」

でも一番驚いたのは、それを仕掛けた海翔君だった。


「君は本当にサプライズ好きだね。こんな素晴らしい方を伴侶に選んでくれて……、感謝だけじゃ足りないな」


「いや、マジで驚きました。まさか、こんなことになるなんて想像もしていませんでした」


「いや、実は君のトコのオーナーとは以前から知り合いで、何度も紹介すると持ち掛けられてはいたんだ。でも行方不明になっていた娘が心配だったからね」


「そうよ。だからジンから今回の話が来た時飛び付いた訳よ。私ね、社長にマジで惚れていたからね」

社長は海翔君に向かってウィンクをした。


「遣られた!!」
海翔君が踞った。


「この勝負社長の奥様の勝ち!!」

俺は調子づいて、彼女が所属していたモデル事務所の社長の……
じゃあない社長の奥様の腕を高々と上げた。



 海翔の機転のお陰で、俺達の結婚式を取り上げた週刊誌は皆無だった。


ただ父の工場復活宣言だけが新聞記事に小さくく載っただけだった。


《橘遥はバースデイプレゼンショーの時、本当にヴァージンだった》
そんなタイトルになると思っていた。


『君はなかなか、上手なようだね』

あの言葉を聞いた時、俺は思わず吹き出した。


俺達はこれから此処で生きて行く。
愛する人の隣で生きて行く。

それだけで幸せだった。

それが俺達の選んだ道だった。




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