【完】女優橘遥の憂鬱
 彼は機転を利かせてその場を纏めてくれた。


「えっー、その事務所汚ーい」


「此処を辞めさせて……。引き抜くつもりだったのかな?」


「そんな……。もし此処を辞めて其処に入ったら……」


「きっとお金を取る気だね。新人となると、あれこれ係るから、マネージャーさんの言うように、百万円くらいかな?」


そんな会話が聴こえている。
何とかなったようだ。
そう思った。


「きっと私がやっていることが腹立たしかったのかな?」


「もし、事務所を辞めるなんて言われたら……、お金が入って来ない。そんなとこだったんだと思います」


「えっー。だったら私達は騙さたってことかな?」


「きっとその辞めさせられたと言う仲間は……。勘ですが、辞めていないと思いますが……。もし最悪そうだったとしたら、違約金として全額没取で事務所だけが儲ける気だったのかな?」


「どっちにしても、事務所が儲ける仕組みね。ありがとう、勉強になったわ」


それは彼の直感だった。
彼は監督の元で……
私を守ろうとして、お客様を危険人物か否かを見極めてくれたのだ。




 それでも私は動けなくなっていた。


処女を売る。
その言葉が心を大きく呑み込んでいた。


『実は私ヴァージンなんです』
さっきのあの言葉が引っ掛かる。


「あっー!?」

私は何かを思い出してその場に踞った。




 『君は幼い顔しているね。本当に大学生か?』


『はい。証拠はその学生証のコピーです』

あれは何処かで……
何時か受けたCMのオーディション。

私は幼い顔にコンプレックスを感じた。

体つきだけは大人だ。でも中味がない。
そう言われた気がした。


『まだ未成年ですが、これでも立派な大人です』

アルバイト感覚でモデルをしていた私だったけど、何時になく興奮してしまっていたのだ。


『それは、男性経験だけは豊富だって言っているようなものだよ。実際どうなの?』


『いえ……それは。すいません実は……、私まだヴァージンなんです』

つい……、言っていた。

何故、あんなこと言ってしまったのか解らない。

きっと、契約金が高いから楽出来る。とでも思っていたのだろう。


実際、私はそれでそのCMに起用されたのだ。
勿論脇役だったけど。


その会場に……

監督が居たのを思い出してしまったのだった。



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